笹山商店は雑貨屋でした。長男は兵隊に行き戦争が終わっても帰ってきませんでした。
俊二と母親の留は日々の忙しさの中で、長男のことは忘れていきました。
昭和二十三年の夏、突然長男は帰ってきました。
「笹山勝男、ただいま帰りました。」
俊二と留は雑貨店の前に立ち敬礼をする勝男を見て固まりました。
店をやりくりしていた俊二にとって勝男の存在は厄介なものでした。
兄に店を取られてしまうのではないか。
そんな思いが日に日に増していきます。
「あにやん、違う違うそれはこっちだ。もういい、あれを配達にいってこい。」
俊二は兄に細かく辛くあたるのでした。
「あんたは早く仕事を見つけなさい。ここはあんたのいるところじゃないよ。」
留は苦労して帰ってきた実の長男に対する愛はなかったのです。
冬になる前に勝男は大月町から姿を消しました。
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