新春といっても一月はまだまだ寒く草木に命を感じる気はしなかった。
幸一は高校二年の三学期が始まったが、昨秋に父を亡くしてから心の中は真冬の日々が続いていた。
その日、帰宅すると玄関で妹の上に乗り首を絞めている母と目が合った。
「何をしてるんだー!」
幸一は泣きじゃくる母を引き離し、ぐったりしている洋子を起こした。
「洋子!洋子!」
妹は答えなかった。
幸一は急いで救急車を呼んだ。
洋子は小児麻痺の障害があり、母は養護学校へ送り迎えしていた。
幸一は奥の部屋へ行った。
「ばあちゃん、大丈夫か?」
ぼけかかって寝たきりの祖母は幸一を黙ってみていた。
「かあちゃん、なんでこんなことしたんだ?」
母はただただ泣いているだけだった。
洋子は病院へ運ばれ息を吹き返した。
曇った空から薄い雪片が降ってきた。
新春とは言うものの幸一の春は、遥か遠くに感じられた。
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